200m先のT字路を直進してください
ひとつのイベントが終わった。達成感を得た。それに付随して予想外のハプニングが起きた。悲しいというよりむしろ嬉しいものだった。気持ちが弾んだ。しかし爆弾を首に巻いた、というか巻かれた。息がしづらい。ミスを犯した。さらに息苦しくなった。背後を見た。退路が断たれていた。喉元までせり上がる不安と後悔。楽しい気持ちが消えた。
背負う期待が大きくなるほど、足取りは重くなり右に左にふらふら。常日頃からしがらみに囚われているというのに、息抜きさえままならなくなった。この肩にのしかかる期待を下ろしてどこか遠くへ行きたい。走って走って肺が空になるまで走って、そのまま崖から飛び降りてしまいたい。
行動や発言の責任がすべて自分に帰結するが故やっていた。それはもう好き放題に。でも、もしそこに他人が介入するというなら話は変わってくる。なぜなら、自分の一挙手一投足が他人への迷惑を孕んでしまうから。ではその迷惑の責任は誰が取る?もちろん自分。取りきれるのか?おそらく無理。ならどうする?やめるか消えるかの2択でしょうね。
せめて燃え尽きる覚悟があったなら。残念ながらそんなものどこにもない。八方塞がりだ。
年年
眠いと思った数秒後には目が覚めるし、疲れた途端元気になって、外出したい気持ちと布団に篭りたい気持ちが同居しており、視界はキラキラしつつ泥まみれ、虚しさ、満足、焦燥、平穏。思考があらゆる直線上を忙しなく行ったり来たりしている。言葉は壁に当たって屑籠へ落ちた。
濡れたズボンの裾が乾いていくのを眺めている。ビニール傘越しの交差点、赤信号がぼやけて割れた。意識と無意識の間を揺蕩っていたい、揺籃の時期はとうに過ぎた、仲間たちは既に旅立ち部屋に1人。エアコンのスイッチを押す。冷たい風に雑念を乗せて心も体も空。平日は無曜日、週末は虚曜日。そういえばどこかに52回繰り返して元に戻る単位があるらしいですね。
一聴すると柔らかいが、その実きめの荒いドローンのように、触れば擦りむく板の上を裸足で歩いている。足に刺さったささくれが踏み出すたびに痛む。踏み出す、痛む。また踏み出してまた痛む。このままどこまで行けると思いますか?
ねじれの位置
太陽がさ、優しくしてくれるから勘違いしちゃったよ、まだ5時にもなってないじゃないか。そうやって好き勝手甘やかして、いつの間にかまた自分から遠ざかっていくんでしょう?まったく嫌になっちゃう。でもまぁ、あと少しその優しさに甘えていたいな。もう2週間もないけれど。
この季節は日が伸びていくから良い。暗いと気が滅入るから、なるべく太陽に触れていたい。まだ梅雨にもなっていないけれど、すでに真夏が恋しい。
初夏。誰も乗っていない電車とホームにあなたと自分、それぞれ立っている。他愛のない会話の中、刻一刻と迫る時間。言いたいことばかりが言えない。喉まで出かかっているのに。
「また連絡するね」
アナウンスとともに扉が閉まる。できるかぎりの笑顔を作る。車内のあなたは微笑んで軽く手を振ってくれた。電車はゆっくり動き出し、ホームから去っていった。
頭に浮かんでは消えていく思い出の数々。言えなかった思いが目から溢れて、消えない跡を頬に残す。今まで沢山の機会を逃してきた。きっとこれからもそう。
ネオン
都会の夜、交差点で信号待ちしている車から漏れ聞こえるクラブミュージックと、オフィスビルの隙間に覗く月。隣で若い女の子たちが誰が誰と付き合ってるとか、週末はどこに行こうかとか他愛のない話をしている。暑くも寒くもないこの時期、少し季節が迷子になっている気がする。
行為や言動が及ぼす力を考えていた。人に囲まれ生活している以上、他人から干渉されずにいるのはほぼ不可能だし、逆もまた然り。人は知らず知らずのうちに言葉や動作で他人に干渉している。
なにげない発言が、振る舞いが、誰かの未来を決定的に変えるかもしれない。気づいていないだけで、運命の分かれ道はそこかしこにある。今この瞬間だってそう。
では、自らの発言や行動で他人の人生を変えてしまったとして、どこまでそこに責任を持てるだろうか。無意識によるものならまだしも、意識的に変えたならば、どこまでもその責任を負わなければならないのだろうか。
柔らかい帝国
車に轢かれて死んだネコは、自分を轢いて殺した人ではなく、そのあと2度目に轢いた人を呪うらしい。
正午を知らせるチャイム。日付と噛み合わぬ気温の高さは、春を通り越してもう夏だ。
待機中という言葉が似合う。何かに没頭したいのに緊張感がそれを妨げる。手元のケータイは通知をオンにして充電器の上。「鳴るな」と祈りながら机に突っ伏している。微睡みと不安がせめぎ合っている。時計を見たくない、時が進むのが怖いから。
安息の延長を持て余し夜の住人になって早1ヶ月。何らの抑圧から解放されて、今日も良い天気だなんて惚けている。今こそが、求めていた日々だと気づいた。でもしばらくすればまた嵐のような日常がやってきて、心を潰し体力を奪っていく。せめてそれまではこの平穏に浸かっていたい。