水路

生活、まれに音楽

無題

短い物語を読んだ。登場人物が入水自殺をした。いわゆるバッドエンドだった。
実生活が空っぽな分、小説なり映画に触れるとひどく感銘を受けて、数日間はそちらへ気持ちが引っ張られてしまう。

少し前の話。ある日、早めに出勤して、就業時間まで事務所の裏で煙草を吸っていた。同僚が近くの通りを歩いているのが目に入る。手を振ると、向こうも俺に気づいたようでこちらに歩いてきた。挨拶を交わし、検討中の企画について立ち話。
しばらくすると、彼女はおもむろに俺の手を取り、持っていた煙草を吸った。俺は予期せぬ出来事に固まってしまった。我に返り、咳込む彼女の背中をさする。
大丈夫か尋ねると、煙草ってこんな味がするんですね、と涙目で返してきた。よくよく考えたら彼女はまだ未成年だ。シャレにならない冗談はやめてほしいと告げた。彼女は少し笑うと、気の抜けた返事とともに事務所へ入っていった。